はじめに
株式会社ヌーラボといえば、プロジェクト管理ツールとして課題をわかりやすく可視化しながら共有することのできる“Backlog”や、構成図やワイヤーフレームを共有しながら作図することのできる“Cacoo”のような、チームやステークホルダーの人たちとコラボレートしながら快適に仕事を進めていくことのできるプロダクトを世に送り出している、福岡発のベンチャー企業として多くの人々に知られています。
ただ単純に知られているといえばよくあるベンチャー企業のひとつとして捉えられてしまうかもしれませんが、「知られている」だけでなく、送り出しているプロダクトを通じて「愛されている」のもこの企業の特徴なのかもしれません。実際にBacklogやCacooには、企業が出しているプロダクトであるにも関わらず、それらを使用する人のコミュニティが存在し、活発に活動が行われているように、企業が開発したプロダクトを通じてより良く仕事ができるようにナレッジを共有している事例が多数あるのも特徴的なのではないかと思います。
そんなヌーラボを率いているのが橋本正徳さん。ベンチャー企業だと、創業者の顔がものすごく際立つという傾向があるのですが、私の知る限りでは、「ヌーラバー」と呼ばれるヌーラボの社員の方々が自律的に活動していく中で、一歩引いてその姿をやさしく穏やかに見守っているようにも見えます。
そんな橋本さんが「会社は「仲良しクラブ」でいい」という本を出されるという話を聞いて、橋本さんの人となりだけではなく、どうしてヌーラボという会社を立ち上げたのか、その中でどんなことを大切にしながらチームを率いているんだろうかというところに興味を抱いて、早速手にとったのでした。
プロジェクトや組織をポジティブに進めることのヒント
組織やプロジェクトには、実際にさまざまな属性の方がいます。プロパーやビジネスパートナーといった所属会社の違い、役職の違い、各々が持っているスキルの違い、考え方の違い、挙げていったらキリがありません。けれども組織やプロジェクトという「集団」として考えるとひとつのまとまりのようなものであって、それがとある目標に向かって進んでいくというミッションを持っています。
とはいえ前述の通り、そこに所属している方たちにはさまざまな個性があるわけで、時にはその個性を押しとどめても集団のために動かなければいけないという状況が往々にしてあるということも、私自身のこれまでの勤務経験の中で痛感してきたというのもまた事実です。
問題はその個性の部分を集団の中でどのように生かしていくと「新しい想定外の1」に変わるのかという、ある意味ポジティブな工夫やマインドの持ち方のヒントが数多く、しかも余すことなくオープンに書いていただいているところが本当に勉強になりました。
特に、私がどちらかというと自分のウィークポイントとして認識しているアンガーマネジメントに関する考え方だけでなく、この状況の中でオンラインでのコニュニケーションが中心となっている中で、「コミュニケーションは上手くいかなくて当たり前」という前提のもとで、「まず相手を信用する」というところから対話や仕事上でのタスクを渡すというアプローチは、現在の仕事の中でも活かすことができる部分が多くあり、自分のこれまでの仕事の仕方を省みてこれは改善できるかもしれないという形で、自分が変えたい側面に対して背中を押してもらうことができました。
きっと、この本を読むと、私だけでなく誰もがこのような気づきを感じるのではないかと思います。橋本さんのことなので、「金言」と書いてしまうといやいやそんなことはないよと言われてしまいそうですが、色々な属性や個性の方々と仕事(だけではないかもしれません。オーケストラなんかもそうかもしれませんね)をしていく中で、どのようにコラボレートしていけば物事が上手く流れてくれるかというエッセンスをたくさんいただいたような印象を持っています。
「偏愛家」というキーワードに関してもとても興味深く思いました。「偏愛家」というと、世間的にはオタク的なちょっとネガティブともとられてしまうかもしれない印象を持たれてしまいがちですが、それも実は個性の一部で、誰もがそのひとつやふたつは持っているのではないかと思うんですよね。
その偏愛的な部分を自律した個性やスキルのひとつとして尊重して生かしながら、集団としてのアウトプットにポジティブに反映するにはどのようにすればいいのかという点に関しても非常に興味深く読みました。
他にも組織やプロジェクトの価値をボトムアップしていく上でのさまざまなエッセンスが詰まっているのですが、これ以上書くとネタバレになってしまうので書くことはやめておこうと思いますが、全体的に思ったのは、これまでプロジェクトの中で働いていくことに対する閉塞感やモヤモヤ感を意外な形で払拭してくれた本でした。
組織論やチーム論に関する書籍は数多く出ていますが、これまで読んできたものに比べて非常に読みやすい印象を受けました。この本をこのタイミングで執筆してくださった橋本さんには心から感謝です。